さよなら、もう一人のわたし (修正前)
「どうして?」

「母親に彼女を演じてほしかったらしいわ。ギャラもいらないからって」

 彼女は目を細めて微笑む。頬を赤く染め、どこか嬉しそうに見えた。

 自分の両親のことを思い出しているのだろうか。

「お父さんが水絵さんのことを好きだったの?」

「母が亡くなった今でも彼女に支配されてしまうくらいにね」

 彼女は含みのある笑みを浮かべる。

 支配というのは嫌な響きだった。

 彼女自身自分の母親を嫌っているわけでもなさそうだった。

 それなら母親を好きだった父親の姿に何か考えるところがあったのだろうか。

 魅入られるという言葉。そして、彼女の父親が旅に出たとも聞いた。

 彼女の父親は今、何をしているのだろうか。

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