さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 千春は父親がお金を残してくれたと言っていたが、他にも財産があるのかもしれない。

 あたしは尚志さんを見ながらそんなことを考えていた。

「どうかした?」

「何もないです」

 あたしは我に返り、人の家庭の事情のことをあれこれ考えていたことに気づき、思わず恥ずかしくなってきた。

 あたしは辺りを見渡す。壁沿いに段ボールがあるのに気づいた。

「何か荷物ばかりある気が」

「伯父が住みついてしまったからね。いろいろ機材とかを買っているみたい」

「機材ですか」

 映画監督らしいからそんなものなのかもしれない。

 あたしたちは伯父さんたちのいるという奥の明かりがついている部屋まで歩いていく。

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