さよなら、もう一人のわたし (修正前)
「水絵さんに憧れているからです」

「それは千春から聞いた。だが、水絵はやめたんだよ? この世界から逃げ出すためにね。それでも君は彼女に憧れているとでも?」

「水絵さんが?」

 始めて聞く話だった。

 彼は頷く。

「そうだよ。彼女は天才だった。少なくとも私はそう思っている。でも、彼女が決めた道だ。仕方ないと思った」

 彼は何かを思い出したかのように幸せそうに微笑む。

 彼も彼女のことを大切に思っていたのだろうか。

「それに彼女はそれ以上のものを残してくれた」

「それ以上のもの?」

「千春だよ。彼女は水絵以上の存在だ」

 彼は何かを追い求めているような子供のように輝く瞳で語りだす。

 あたしはあのときの彼女のことを思い出していた。
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