さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 彼は彼女の演技に惚れているのだろう。

「それは分かります。でも千春は断ったと言っていました」

 彼は愉快そうに笑った。

「彼女は強情だからね。昔からそうだった。言い出したら聞かないから」

「そうなんですか」

 千春のそんな姿はすぐに想像できる。

「そうだよ。しかし、才能があっても本人にやる気がなければ無意味なことだからね。才能が全てじゃないということは彼女を見ていたら思う」

 千春も同じことを言っていたのだ。

 才能は本人が好きなものだけに与えられるわけじゃない。

 きっと千春のような人も多いのだとは思う。

 彼はあたしに製本された本を手渡した。

「これは」

 あたしは本を捲る。そこにはあたしが見慣れたセリフが並んでいた。
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