さよなら、もう一人のわたし (修正前)
「君の好きなところをどこでもいい。読んでみてくれ」

「読むだけですか?」

「それだけだよ」

 それは逆に難しい気がした。動きをつけたほうが気持ちも盛り上がるし、すらすらと言葉が出てくる。だから読むだけだと言っているのだろう。

 あたしはページを捲る。それは二人の出会いのシーンだった。

 あたしは水絵さんの姿を思い出し、顔を綻ばせた。

「あたしはあなたのことが大嫌いよ。いつも嫌なことばかりして」

「僕も君のことが嫌いさ」

 そう言ったのは千春の伯父さんだった。

 あたしは軽く笑う。

「それならよかった。二度とあたしに話しかけないでね」

 突き放すような冷たい口調でそう告げた。

 そこで二人は別れる。

「次」

「あの、一つ聞いていいですか?」
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