皮肉と剣と、そして俺Ⅱ
第三章~記憶、変化~
母の葬儀が執り行われてから、幾日が過ぎた。
日常は何ら変わっていないのに、胸には明らかに残る穴、焦燥感。
足りない。
この日、エイダは朝早くから身支度をしていた。
まだ人が活動するにはいくらか早いこの刻。
エイダは厚手の外套を着込み、軍が秘密裏に所持する戸口へと向かった。
「エイダか」
辺り一面を白く染めている雪を踏みしめると、しゃりしゃり軽快な音が鳴り響いた。
それに気がついた男がエイダの名を呼びながら振り返る。
返事は必要なかった。
無言で男を見て、その隣に身をおく。
「親父のこと、責めるなよ」
並んだ瞬間に横から降ってくる、少し戸惑ったような声。
いつ聞いても安心する、兄であるダニエルの優しい声音。
「分かってる」
父が悪くないことなど、分かっている。
ただ悔しいだけなのだ。