皮肉と剣と、そして俺Ⅱ


「ここは…」


父が声をあげる。
戸惑いと哀愁を含んだ、小さな疑問。


なだらかな丘陵は春ならば鮮やかな緑に覆われているが、この時期は他と変わらず白い雪で覆われている。

今まで何人と知れずに悲しみの涙を流してきた場所一一そう。
ここは墓地であった。


「どうせ母さんにあってないのでしょう?」


振り向きざまに訊くと、父は申し訳なさそうに目を伏せた。

言葉はなくとも父の反応で、一度もこの場所に来たことが無いことが知れた。


軍舎から歩いて直ぐの位置にあるこの墓地は、軍人や、その家族の墓が多い。

戦争で命を落としてしまった軍人や、目一杯命を使って亡くなっていった人。
様々だけれど、ここには皆が安らかに眠っている。

そして、母もここにいる。



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