皮肉と剣と、そして俺Ⅱ


墓石をなぞるように移動する父の手を、エイダも倣って見る。


「…生前に母が兄に残した言葉です。
私も知らなかった母の意思。この墓石を建てるときに兄の計らいで刻んで貰ったそうです」


父が本国に帰ってきたあの日、父と対面した後にダニエルと二人で此処に来たときにエイダも初めて目にしたのだ。


墓石に彫られていたのは揺るぎない母の意思。
父に宛てた、母の気持ち。


「こんな、こと…」


墓石の指を一向に退けようとしない父の震えた声が、静寂が支配していた辺りに木霊する。

声と動揺、父の肩は震えていて。


父の真下の雪は水分を含んで輝いていた。





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