MAΖE〜メイズ〜
◇思惑
7月14日(事件発生1日前)
この日は月に1度行われる模試があったため,帰りがいつもより遅くなった。
タクシーに揺られながら窓の外をボーッと眺めていると
ポツ…ポツ…
雨だ
車のワイパーがゆっくりと動き出す
ザーーーッ
雨は次第に強さを増し,ワイパーも動くスピードを上げる。
「こりゃぁ朝まで止まないなー」
運転手の安住さんが独り言のように呟いた。
安住さんは紫藤グループ専属のタクシー運転手で,塾の送り迎えはいつも安住さんにお願いしている。
「あーぁ,最近雨ばっかだねー」
「穣吏ちゃんは雨が嫌いなのかい?」
「うん,嫌い。なんか暗い気持ちになるから」
「そうかい?おじさんは雨好きだけどなー」
「えぇー?」
そんな会話をしているうちに,車はあたしの家の前で止まった。
雨は相変わらず降り続いている。
「あ,後ろにビニール傘があるから使いなさい」
「いいよ,すぐそこだし!ありがとうございました」
あたしはタクシーを降りてから,玄関までの数メートルを猛ダッシュした。
そしてそのまま急いで中に入ろうとしたとき,車庫に紫藤の車が止めてあることに気付いた。
(今日は珍しく早く帰ってきたんだ…)
そう思った瞬間
ガシャン!!
何かが割れる音がした。
(なに…?)