天空のエトランゼ〜赤の王編〜
加奈子は、黒い乙女ケースを九鬼の体に押し付けた。

「早くしろ!時間がない!」

「え」

突然、加奈子の持たれていた窓ガラスが輝き…空間が左右に割れると、道が開いた。

「理香子は、おれがこの乙女ケースを身から離したのを合図にして、向こうの世界へ戻れるような仕掛けをしてくれた!」

「理香子が!」

感情が昂り、震える九鬼を加奈子は一喝した。

「早くしろ!」

加奈子の体が、空間の割れ目に埋もれていく。

九鬼は頷くと、左手で加奈子の手から乙女ケースを掴んだ。

すると、右手にあった乙女ケースと引き合い…2つの乙女ケースは重なり、融合した。

「お前の手にあったのは、昔…月の女神が、愛する者とともに、戦う為に与えた力」


九鬼の脳裏に、黄金の乙女スーツを身に付けた月の女神と、その隣にいる銀色の乙女ソルジャーが映る。

そして、銀色の乙女ソルジャーは…闇の女神の魂を封印して、生き絶えた。



「…」

九鬼は、一つになった乙女ケースを握り締めた。

「そして、おれが持ってきたのは!」

加奈子の体が、実世界につながる道に、吸い込まれていく。

「理香子が!親友として、共に戦う戦士として、お前の為につくったものだ!」

「加奈子!」

九鬼は手を伸ばそうとしたが、途中で止めた。

「あいつは、これを造る為に、殆どの力を使い…しばらくは、女神の力が使えない。だから、おれは早く…戻らなければならない!」

加奈子はフッと笑い、

「心配するな。おれは死なない!」

九鬼を指差した。

「おまえとの決着をつけるまではな!」

「加奈子!!」

九鬼は絶叫した。


空間が閉まり、涙を流す九鬼が見えなくなった時…加奈子は自然と微笑んだ。

(おれは…お前を憎んでいる)

だが、その続きを言えなかった。

いや、一生…言うつもりはない。

(おれは…)
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