天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「私は…」

穴が空いた部分から、闇の粒子が漏れだし…すぐに、もとの大きさの刹那に戻った。

新しく生えた腕も、付け根から落ちた。


その様子を、目を細めて見つめていた九鬼は…ゆっくりと歩き出した。

近付いてくる九鬼に気付き、刹那は後ずさった。

「い、いや…」

「…」

九鬼は無言で、ただ真っ直ぐに刹那を見つめていた。

「いや、いや…いやよ!」

パニック状態になった刹那が、絶叫した。

すると、刹那の右足が取れた。

背中から、グラウンドの土に倒れた刹那。

それでも、体をよじりながら、土を抉り逃げていく。

そんな刹那の左足を、追い付いた九鬼が踏みつけると、付け根から足が取れた。

「ヒィィ」

小さな悲鳴を上げながら、両手両足がなくなっても、刹那は逃げようとした。

地面に倒れている刹那と、見下ろす九鬼と…目が合った。

「お、お前だって!」

刹那は怯えながらも、下から九鬼を睨み付け、

「私と同じ…人を殺して、生きて来た癖に!」

叫んだ。

「そうだな…」

九鬼は認めた。

幼き頃、九鬼は祖父によって部屋に閉じ込められ、毎日戦わされていた。

狂暴な動物や…凶悪な暗殺者や殺人鬼。

それは、闇の存在と戦う為に、鍛えられていたのだ。

(あたしの体は、血塗られている)

だからこそ、九鬼は戦うのだ。

弱き者を守る為に。


「あたしは…人殺しだ」

頷いた九鬼を見て、刹那は絶叫した。

「それなのに!」

今…刹那は泣いているのだろう。

しかし、涙は流れてなかった。

よく見ると、瞳も潤んでいない。

「私だけを殺すのか!お前は、私を…」

あまりにも興奮して叫んだ為、刹那の顔が首の付け根から外れた。

ぱくぱくと口を動かしながら、土の上を転がる刹那の首を、九鬼は無表情で見つめながら、かかっている眼鏡のフレームを指で触れた。
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