天空のエトランゼ〜赤の王編〜
まだ余裕ぶる麗華を見て、刈谷は右手で十字を切った。

「憐れだな…」

「何の真似だ!」

目を瞑り、神に祈るような仕草をした刈谷に、麗華は怒りを覚えた。

ゆっくりと、目を開けると、刈谷は麗華を見つめ、

「人は、愚かな行為をした者に、こうやって最後の祈りを捧げるのだろ?」

ゆっくりと目を細めた。

「誰が、愚かだ!」

麗華のオウパーツが、振動波を発生させた。

「身を持って教えてやろう」

そう言った瞬間、刈谷の体の中から次々に、彼にそっくりな炎でできた人間がでてきた。

そして、数十体となった炎の人間は、麗華の周りを囲んだ。

「無駄なことを!」

一斉に襲いかかるが、炎の人間は振動波ですぐに分解された。

しかし、攻撃が届かなくても、次々に迫って来る炎の人間によって、あることが起こっていることに、麗華は気付いた。

自分の周りだけが、蒸し風呂のように暑くなっていることに。

「オウパーツは、あらゆる攻撃を防ぐ!しかし、熱気はどうかな?」

刈谷は、体から炎の人間を生み出しながら、フッと笑った。

「そ、そんな…馬鹿な!」

全身が汗だくになり、さらに熱気で皮膚が焼けて、全身に火傷のような痛みが走った。

「い、いやあ!」

麗華は絶叫すると、走り出した。

オウパーツの力で、炎の人間達を消滅させながら、道を作ると、刈谷が立っている場所とは反対方向へ駆け出した。

「フン」

しかし、刈谷も炎の人間達も、麗華の後を追うことはなかった。

「あ、あたしは!オウパーツを王に捧げるまでは!」

熱気が支配する廊下を抜けて、右に曲がった瞬間…麗華は闇の中にいた。

「こ、ここは…」

明らかに、空間が変わった世界。

どこまであるかわからない広さ。そして、一ミリ先が見えない闇の深さ。

そんな闇の空間に、1人の男が立っていた。

それも、麗華の目の前に。

「ヒィ」

小さな悲鳴を上げた麗華の頭に向けて、闇に立つ者は手を伸ばしてきた。
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