天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「赤の王だと?元々人間だった者を王と呼ぶな!」

ギラはゾラを叱りながらも、心の中ではそう呼ばれるのも仕方がないと思っていた。

(あの少年がよくぞ…あのレベルまで)

ギラの脳裏に、天空の騎士団の前に降り立ち、自分に砲台を向ける赤星の姿がよみがえる。

(しかし…彼は…優しすぎる)

妹である綾子の前で、本気を出せない赤星浩一。

綾子に貫かれた心臓の傷口から、血を噴き出し…倒れる赤星浩一。

だが、次の瞬間…アルテミアが現れた。

(だからこそ…アルテミア様を預けられるのだが…)

ギラが、心の中でそんなことを考えているとは知らずに、ゾラは頭を下げ、床を見つめながら、言った。

「だが!赤のお…赤星浩一にも弱点がございます!」

途中で呼び方を変えながら、ゾラはにやりと笑った。

「それは!赤星浩一が、天空の女神を愛しているということです。そして、恐らく!天空の女神も!」

ゾラの言葉に、ギラは眉を寄せた。

ゾラはにやつきながら、言葉を続けた。

「愛なるものは、我々魔物には無用のもの!理解できませぬ!しかし、人間は愛というもので、強くもなりますが…弱く、狂う時もございます!」

ゾラは興奮のあまり、再び顔を上げた。

「そこをつき、赤星浩一と天空の女神の仲を崩せば!彼らを互いに憎ませれば!」

「下らん」

ギラはそう言うと、ゾラに背を向けた。

「ギラ様?」

思わず立ち上がったゾラは、ギラの背中に手を伸ばした。

「愛がわからぬ我らが、どう愛を裂くつもりだ?」

足を止めたギラの背中から漂う殺気に、ゾラは思わず後ずさった。

「そ、それは…」

口ごもり、即答できないゾラを残して、ギラは部屋から出ていった。

「フン!簡単に言い寄るわ」

ギラは回廊を歩きながら、顔をしかめた。

その時、前から誰かが近付いてくるのがわかった。

まだ姿は見えないが、それが誰なのか…ギラは回廊に響く足音だけで理解した。

「サラ…」

近付いて来たのは、同じ騎士団長のサラだった。
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