天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「やつらの気を感じない」

僕の言葉に、雲の上に浮かんだアルテミアは腕を組みながら、頷いた。

「あああ…」

月下の許、白い翼を開き…俯いた瞳が赤く輝いていた。

「もう…大丈夫なんじゃないかな?」

確信はないが、あれほどあった反応がまったくないのだ。

普通治まったと思うだろう。

だけど、アルテミアは違った。

全身に緊張を纏っていた。

「アルテミア?」

そんな異様な空気に、思わず…僕は訊いた。

「…赤星」

少し間を置いて、アルテミアが口を開いた。

真下の地上を見下ろし、

「あたしが本気になれば…この星を破壊できる。だけど…すべてを守ることはできない」

アルテミアの脳裏に、人間もどきに蹂躙される人々の姿がよみがえる。

「破壊は、一瞬だ。人の命もな」

「アルテミア…」

僕には、アルテミアの言いたいことがよく理解できた。

だからこそ、何も言えなかった。

一生懸命、できる限りの命を救う。

そんなことを口にしたところで、失った命は戻らない。

それに、守れなかったことに理由をつければ…もっと守れなくなるかもしれない。なぜならば…そこに、甘えが生じるからだ。

常に悔い…常に、すべてを守ると思わなければ、前には進めない。

(力ではない)

僕はそう思う。

だけど…力がなければ、いけない。

そうとも思う。

すべてを破壊する力だけではなく、すべてを守る力を知り、理解することができたから、僕らはここにいる。

そして、その力は…破壊する力よりも、力そのものは弱いかもしれない。

だけど、何よりも強くなければならない。

かつて勇者といわれたティアナ・アートウッド。

あの人は力だけならば、魔神よりも弱いだろう。

だけど、あの人の守る力は…魔王よりも強かったのだ。

(アルテミアは強くなった…。初めて、出会った時よりも)

僕は、苦悩するアルテミアに強さを感じていた。

(そして…僕は…)

「赤星」

アルテミアの声が、僕の思考を止めた。
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