天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「最後の呪い?」

九鬼は眉を寄せた。

「はい」

理事長は頷いた後、九鬼に背を向け、深いため息をついた。

そして、また話し出した。


「虚無の女神ムジカは、始まりの女神にして…終わりの女神。父親である神は、最初に彼女を創りました。最高の美貌と最強の力を与えて…」



自らの片腕として、女神を作った神であった魔王は…ムジカを創って愕然とした。

彼女には、心がなかったのだ。

何も感じない彼女には、どんな力もどんな美貌も…意味がなかった。

無欲であることが、神であるというが…ギリシャ神話などがしめすように、無欲な神はいない。

悟りを開いた菩薩とは、違うのだ。

魔物や人を統治するには、無欲ではできない。

何事にも興味をしめさなさいムジカを、神は見捨てた。

そして、その代わりに、新たな2人の女神を創造したのだ。

それが、デスパラードとイオナである。

デスパラードは、魔物を率い…人間をいたぶり、おもちゃのように殺しまわった。

イオナは、デスパラードの行為を不快に思い、虫けらのように殺されていく人間を憐れに思っていた。

姉妹の溝は、1人の人間の登場によって決定的になる。

それは、のちに乙女シルバーとなる人間の男であった。

彼に惹かれたイオナは、人間側に立ち、自らの力を与えた。それが、乙女ソルジャーである。

黄金の戦闘服を纏ったイオナの隣に立ち、つねに前線で戦う銀色の戦闘服を纏い戦う戦士。

その精悍さと勇気に、惹かれたのは…イオナだけではなかった。

心がなく、ただ世界をさ迷うだけの存在となっていたムジカ。

なぜ…ムジカが、乙女シルバーに興味をしめしたのかはわからない。

彼女は、乙女シルバーと出会うことで初めて…自我を持ったのだ。

その自我は、強烈な恋心と…嫉妬心とともに目覚めた。

心無き女神は初めて、心を持った。

しかし、その心は…真の意味で虚しさを知ることになった。

愛しても、結ばれない…虚しさを。
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