天空のエトランゼ〜赤の王編〜
浩也の様子が少し落ち着いたのを確認すると頭を下げ、その場から去ろうとする九鬼。

「待てよ」

九鬼の様子にただならないものを感じたカレンは、腕を掴んだ。

「何があったんだ?」

「…」

無理矢理腕を振りほどくこともできたが、自分を見るカレンの真剣な表情に、仕方なく…理由を話した。



「何!?」

カレンは驚き、思わず腕から手を離した。

「あ、あり得ないだろ!お前から、あれを奪うなんて…どんな達人だよ!」

もしカレンが、九鬼から乙女ケースを奪おうとしても、容易ではないことを知っていた。

九鬼は俯き、

「どうやって、取られたか…わからない…。巨人の一太刀を受け止めた後だから…」

「戦闘中に取られたのか!」

2人の会話を横で聞きながら、落ち着きを取り戻した浩也は首を捻っていた。

やがて、ぽんと手を叩くと、九鬼とカレンに背を向けて歩き出した。

はっとしたカレンが振り向き、声をかけた。

「どこにいくきだ!」

浩也は足を止めずに、振り返ると、

「取られたものを返して貰います。他人のものを取ることは、駄目と…お母様が言ってましたし」

浩也は自分の言葉に頷くと、前を向いた。


「待て!お前が行ったら、おかしくなる!それに、体は大丈夫なのか!?」

「もう大丈夫です!」

カレンの制止もきかない浩也の前に突然、九鬼が現れた。

「カレンの言う通りです。あなたが行けば、話がこじれるだけです」

九鬼は、足を止めた浩也の前に立ち、

「これは、あたしの問題です」

浩也の目を見た。

透き通った綺麗な目を見ていると、ぼおっとしてしまいそうになる。

しかし、目を逸らすことはできない。

ほんの数秒見つめ合った後、浩也は九鬼に背を向けた。

「わかりました…。確かに、これはあなたの問題です」

浩也は、カレンの方へ戻っていく。

「それに…あなたでしたら、大丈夫でしょ」

浩也は笑った。

「え」

九鬼は、予想外の言葉に戸惑ってしまった。

「あなたは、強いから」

そう言って、自分から離れていく浩也の後ろ姿から、九鬼はしばし目を離せなくなった。

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