天空のエトランゼ〜赤の王編〜
誰もいない空間を睨みながら、カレンは言った。

「あれが…あの力がいるのか?お前の力は、人間を超えている。乙女ブラックにならなくても、魔物と戦えるだろ?」

そこまで言うと、渡り廊下の真ん中で足を止め、カレンは後ろにいる九鬼に振り向いた。

「鍛え方次第では、魔神ともやり合えるようになる」

カレンは、九鬼のしなやかな肢体を見つめた。

乙女レッドになったことのあるカレンは、乙女ソルジャーになると、身体能力が著しく向上することを知っていた。

だが…どこか卑怯に感じていた。

「そうかもしれない…」

九鬼は頷き、目を閉じた。

瞼の裏に、今までの戦いがよみがえる。

その中には、乙女ブラックの力を使っても…まったくかなわない相手がいることを知った。


(それに…)

九鬼は目を開けた。

(理香子…)

瞼を閉じなくても、姿が浮かんだ。

(加奈子!)

時空間を越えて、友が届けてくれたのだ。

あの乙女ケースを。



九鬼は、カレンに背を向けた。

「あたしには、あれが必要なの」

まだ廊下にたむろする生徒達の向こうへ、九鬼は歩き出した。

「どうしてだ?」

カレンは、九鬼の背中にきいた。

「魔神…いや、さらに上の者と戦う為に」

九鬼の目に、生徒達の姿ではなく…サラや、アルテミアの姿が映る。

(あの高みまで…そして)


人混みをかき分け、九鬼は廊下の中央に踊り出た。

投げキッスをばら蒔いていた中西が、九鬼に気付き…おどけるのを止めた。

「やあ〜!マイスウィートエンジェル!どうかしたのかい?」

自分を真っ直ぐに見据える九鬼に、中西は微笑みながら肩をすくめた。

「そうか…妬いてるのかい?心配しなくてもいいのに〜い!お前には、ちゃんと唇に与えてやるからさ」

九鬼は、中西の言葉を無視して、ただ歩き出すと、

「返して貰う!」

真っ直ぐに、中西が持つ乙女ケースに向かっていった。

「へえ〜」

中西は顎を上げると、ゆっくりと下げた。

そして、呟くように言った。

「それは…無理だ」

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