天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「あの男!」

廊下から飛び降りた中西を見て、カレンも後を追おうとしたが、廊下で呻く生徒達の声に足を止めた。

浩也が一瞬で、乙女グレーを排除したとはいえ、襲撃で傷付いた生徒達が多数した。

(向こうには、浩也がいる…)

カレンは回れ右をすると、ブラックカードを取りだし、生徒達に治癒魔法を使う為に走り出した。

(それに…まだ敵がくるかもしれない)

魔法の使い方や戦い方を指導する学校とはいえ、本格的な戦闘の経験のない者達ばかりである。

治療に走りながらも、次の敵に備えていた。


しかし、第一陣以外の乙女グレーは現れなかった。


その理由は、簡単である。


乙女グレー達は、生徒達のいる校舎にたどり着くことなく、途中の廊下で砂と化した肉体をさらしていたからだ。



「フン!」

気合いとともに、乙女グレーの頭を…眼鏡ごと蹴り砕く女。

黒革のボンテージ姿に、短い髪をひるがすことなく、次々に乙女グレーを砂へと戻していく女はついに、目的の場所の前に来た。

「雑魚に手間取ってしまったな」

砂の山だけが残る廊下を振り返って、ちらりと見た後、女は目の前にあるドアを蹴り開けた。


「ビンゴ!」

部屋一杯にいる乙女グレーを見て、女はジャンプした。

空中で身をよじり、しなりを加えた蹴りを、乙女グレー達に叩き込んだ。

眼鏡を破壊され、ミイラから砂となり崩れる乙女グレーの様子を確かめることなく、女は部屋の奥を見つめた。


「誰です!ここは、生徒の立ち入りを許可していません!」

木目調の美しい机の向こうで、悠然と椅子に座っているのは、黒谷理事長だった。

口調は厳しくも、虚ろな瞳は…肉体と精神が同調していないことを示していた。

「フン」

女は鼻で笑うと、理事長を指差し、

「そこをどけ」

静かな口調で命令した。

黒谷は女の言葉を無視して、

「出ていなかない場合は、速やかに排除すべし」

立ち上がると、乙女ケースを突き出した。

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