天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「!?」

特別校舎に飛び込んだ九鬼は、目を疑った。

「赤星君?」

ムジカの体から噴き出す鮮血が、廊下を真っ赤に染めあげる。


「クギ…。お前が」

ムジカの目に涙が、流れた。

「うおおおお!」

血が浩也を興奮させるのか、雄叫びとともにライトニングソードを抜くと、今度は上段に構え、一気に振り降ろした。

「あああ」

体が真っ二つに裂けるムジカを見て、九鬼はかけ出した。

飛び散る血が、九鬼の全身にかかった。

勿論、前に立つ浩也は血だらけである。

「クギ…クギ…」

手を伸ばしながら、浩也の横を前のめりに倒れていくムジカ。

それを見ようともしない浩也。

足を止めた九鬼の爪先まで、ムジカから血が流れて来た。

呆然と、ムジカを見下ろす九鬼。

「こ、浩也?」

特別校舎の出入り口から、中に飛び込んだカレンは目を丸くした。

「どうして…お前が」

その声に振り返った浩也の生気のない目が、カレンとその後から来た香坂達を射抜いた。

先程のムジカよりも冷たい目。さらに、血だらけであることが、その異様さを際立てっていた。

「…」

浩也はそのまま振り向くと、ゆっくりとカレン達の方へ歩き出した。手の中にあったライトニングソードは分離して、割れた窓から飛び去っていった。


「クギ…」

そんな浩也の背中を見送っていた九鬼は、再び視線をムジカに向けた。

真っ二つになっても、顔を上げ…自分に手を伸ばすムジカに、九鬼は腰を屈めると、その手を握った。

「あ、ああ…」

涙を流しながらも、嬉しそうな声を上げ、九鬼の手を握り返した瞬間…ムジカの体は、光りの粒子と化し、消滅した。

飛び散った血も、流した血も…消滅していく。

「浩也…」

思わず道を開けてしまったカレン達の間を、通り過ぎる浩也の体についた血も消えていった。

特別校舎から出た時には、血の匂いも汚れもなくなった浩也に戻っていた。

ただ一つ違う点は、左手の薬指に指輪がついているだけだ。

そのまま真っ直ぐに、西校舎の裏に戻ると、一人の女が待っていた。





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