天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「兜博士がいなくなった?」

南館の一番奥にある理事長室に通された結城哲也の耳に、飛び込んで来たのは、衝撃的な事実だった。


「そうです。まるで神隠しにあったかのように」

木目調の美しい机の向こうでため息をついた黒谷は、ゆっくりと立ち上がった。

「あなたもご存知のように、彼は月影の研究をする為に、特別校舎の地下にこもり、ここしばらくは誰に会うこともなく過ごしていました」

「月影…」

哲也は背広の上着の内ポケットから、ダイヤモンドでできた眼鏡ケースを見つめた。

「彼によると、この世界は月の女神が、人間の為につくったのだと言っていましたね」

「はい」

黒谷の言葉に、哲也は頷いた。

「確か…人間の天敵がいない世界と」

哲也は、ダイヤモンドのケースを内ポケットにしまいながら、眉を寄せた。

「しかし、女神が元々いたの世界をコピーした時、バクが発生したと」

「そうです。世界は、神を求めたのです!」

黒谷は机から出ると、哲也の横を通った。

「月の女神は、愛する男と結ばれる為に、神であることを放棄した。故に、世界は独自に神を創造した」

「世界が神を創るのですか?」

哲也の問いに、黒谷は扉の上に飾られた学園の紋章を見つめ、

「ええ…。この世界の番人として」

呟くように言った。

「だとすれば…その神は、どこにいるのですか?」

哲也は振り返り、黒谷の背中に問いかけた。

「この世界にはいない」

三日月をモチーフにした学園の紋章は、刃にも見えた。

「どこにいったのですか?」

「恐らく…神々のいる世界」

黒谷は紋章から、目を離した。

「だから…世界は、新たな神を創造された」

ゆっくりと、哲也のように振り向き、

「それが、兜博士の研究の結果で出た答えです。そして、その世界は、私達の世界と共鳴していると」

「共鳴?」

「はい」

黒谷は頷き、

「だから…あなたに似た人もいるかもしれませんよ」

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