天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「おはよう」

振り返って笑顔を見せる中島の顔を確認して、あたしは顔の中で、よしと頷いた。

中島の表情が曇ってなければ、世界が平和に思えた。

中島は挨拶を返した後、少しあたしを見つめてから、微笑みながら前を向いた。

一緒に歩くのは、恥ずかしい。

だから、少し後ろを歩く。

恋人には見えないだろう。

いや、まだ…恋人にはなっていないんだけど…。

中島の背中を見ているだけで、幸せになれた。

目の前にいるだけで。


「おはよう。理香子」

ぼおっと中島の背中を見つめていたら、隣に誰かが並んだ。

「あっ…えっ!おはよう」

自分の世界に入っていたあたしは、すぐに気づかなかった。

「相変わらず…朝から軽くストーカーモードね」

隣で歩く女子高生が前を見て、ため息をついた。

「そ、そんなことは…」

あたしは改めて隣を見て、驚きの声を上げた。

「え?里奈!?お、おはよう」

目を丸くするあたしに、結城里奈は呆れた。

「誰かわからずに、挨拶したのかよ!」

「あははは」

笑ってごまかそうとするあたしに、里奈は頭を抑え、

「天下の相原理香子様が、あんな冴えない男が気になるとは…学園七不思議の一つだよ」

「冴えないなんて!そんなことはないわよ!」

「恋愛モードを外してみろ。普通より、ちょっと以下…」

と、里奈は言ってから、唾を飲み込んだ。

物凄い形相で、あたしが睨んでいたからだ。

「も、申し訳ございません」

なぜか丁寧に謝った里奈から、フンとそっぽを向くと、あたしはまた中島の背中を見つめた。

(そうよ!中島の良さがわかるのは、あたしだけなんだから!みんな、気づかないのよね…)

ここまで考えて、あたしははっとした。

(も、もし〜みんなが中島の魅力に気付いたら…)

あたしの頭に、女に囲まれる中島の様子が浮かぶ。

(それは、駄目!)

手を伸ばしても、届かない距離にいる中島。

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