天空のエトランゼ〜赤の王編〜
(いやあああ!)

両手で頭を押さえ、声には出さなかったけど、身悶えるあたしを見て、里奈はため息をついた。

「おはよう!」

里奈の横に、後ろから夏希が駆け寄ってきた。

少し離れて、携帯を打っている蒔絵がいた。

「おはよう…」

ため息とともに、挨拶をする里奈。

「あら?理香子…何してるの?」

まだ妄想と格闘しているあたしを指差した夏希に、里奈は言った。

「いつもの発作」

「へえ〜」

夏希はすぐに前を向き、納得した。

「そんなにいいかね」

首を傾げる里奈に、

「蓼食う虫も好き好きってやつよ」

結構失礼なことを言う夏希。

「そういうもんかね」

なんか納得できない里奈の前を、突然誰かが横切った。

「理香子様!」

まるでフライングクロスチョップを喰らわすように、理香子に抱きついたのは、竜田桃子であった。

「また…ややこしいのが来た」

こめかみを、人差し指で押さえる里奈。


「!?」

反射的に膝蹴りで、桃子を撃墜したあたしは、ここでやっと妄想から戻ってきた。

背中に、悪寒が走ったからだ。

「ああ〜」

膝蹴りを喰らった桃子は、自分の頬を撫でながら、

「理香子様の膝が〜あたしの頬に…」

うっとりした表情を浮かべた。


「ああ〜やってられんわ」

里奈は、歩く速度を速めた。

「女子高か!ここは!」

「まあ〜女子高が、みんな…こんなのとは思えないけどね」

夏希は、肩をすくめた。

「ち、ちょっと!」

あたしも慌てて、里奈と夏希の後を追おうとしたが…そうしたら、中島との距離が縮まる。

それは、まずい。

中島とあたしとの距離感の黄金率が崩れる。

「理香子様!」

速度を上げれないあたしの腕に、桃子が腕を絡めてきた。

「男なんて!汚れてます!女同士の方が、絶対!いいですよ!」

と言って、あたしの腕に胸を押しつけてくる。

(何やってんだ!こいつは!)

悪寒は、全身に広がっていた。




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