天空のエトランゼ〜赤の王編〜
夕暮れ。または、黄昏。

光と闇の中間の時間。

それは、もっとも美しく…もっとも幻想的であるが、恐ろしい時間でもあった。

闇の始まりを告げるからだ。

しかし、恐れることはない。

九鬼は夕焼けを見つめながら、目を細めた。

(あたしは…闇夜の刃だ)

景色が一瞬で変わる前の最後の輝きを、全身に浴びながら…九鬼は気を研ぎ澄ましていた。


「いや〜あ!さすがですね」

感心と少しの笑いを含んだ声が、耳元でした。

(!?)

驚くよりも速く、九鬼は腰を捻ると半転し、手刀を横凪ぎに振るった。

もし後ろにいるのが、一般人ならば、肉を斬られて致命になる程の切れ味を誇る手刀だが、九鬼には確信があった。

こいつは、一般人ではないと。

頭の判断よりも、本能がそう判断した。

その判断力と反射神経があったからこそ…九鬼は、今まで生き残れてこれたのだ。

しかし、瞬き程の時間の後、空気を切り裂く音だけが耳に聞こえ、空気の抵抗しか感じなかった手刀が、虚しく…中に止まっていた。

「やはり…さすがですね」

拍手の音とともに、男の声がした。

右側の後ろ…九鬼の攻撃の直後、死角になったところに、その男はいた。

黒のタキシードに、黒いシルクハットを目深に被った男。

「初めまして…九鬼様」

男は帽子を被ったまま、深々と頭を下げた。

「お前は!」

一連の動きに、ただ者ではないことを理解した九鬼は体勢を変えると、構え直した。

「いやですねえ〜。そんなに警戒しなくても」

男が頭を上げると、世界を照らしていた今日最後の光が消え、闇がすべてを包んだ。

「私は、あなたの味方ですよ」

「味方?」

九鬼は、眉を寄せた。

目深に被ったシルクハットの為に、男の顔はわからないが、笑っていることは、口元でわかった。

「何を根拠に!」

九鬼は少し腰を下ろすと、いつでも襲いかかれるようにした。

「用心深いですねえ」

男はさらに口元を緩めると、

「折角…今一番、あなたが知りたい情報を教えて差し上げようと、思っていましたのに」
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