天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「一番…知りたいこと?」

九鬼は警戒を解かずに、男の口元だけで本心を探ろうとした。

しかし、やめた。

口元の表情なら、簡単に作れる。

「おや?信用できないと」

少し意外そうに言う男の口調に、九鬼は珍しく苛立っていた。

(何だ?この感覚は…)

男の口振りや表情がわからないことに、苛立っているのではなかった。

(どうしてだ…。あたしは、こいつを知っている!)

記憶にはない。感覚が、そう告げていた。

(この感じ…)

九鬼の心の動揺に気付いたのか…男は指先でシルクハットのつばを上げた。

男の顔が、露になった。

彫りの深い日本人離れした顔の造りは、一瞬ハーフかと見間違える程だ。


(やはり…見覚えがない)

構え直す九鬼を見て、男は肩をすくめた後、恐るべき言葉を発した。

「私は、月の女神の使者…と言いまして、この世界の月ではございません。あなた方すれば、異世界…ブルーワールドと言われる世界から来ました。あなたに、お会いする為に」

「何!?」

九鬼は絶句した。

「月の女神のご命令により…!」

話の途中、男は右手の廊下の奥に目を向けた後、

「どうやら…今日は、ここまでのようですね」

今度は帽子を脱ぎ、深々と頭を下げた。

「また…お会いしましょう。九鬼真弓様」

「ま、待て!」

慌てて、九鬼が手を伸ばした瞬間、男は微笑みながら、その場から消えた。

「瞬間移動!?――チッ!」

九鬼は舌打ちすると、周囲の気を探った。


「会長!」

廊下の奥から、生徒会のメンバーが姿を見せた。

どうやら来るのが遅い為に、迎えに来たようだ。

九鬼は構えを解き、一番目を瞑ると、

「ごめんなさい。遅くなって」

近付いてくる生徒会のメンバーに笑顔を向けた。

「遅いですよ」

「ちょっと…話し込んでしまって」

九鬼は申し訳なさそうな表情をつくりながら、廊下を歩き出した。


もう辺りは、真っ暗になっていた。
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