天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「ありがとう!蒔絵!」

閃光で、まったく見えなくなった前方に背を向けて、九鬼は走り出した。


「逃がすか」

突然、蒔絵の変身が解けると同時に、閃光を切り裂いて、小さな光の槍が飛び出してきた。

蒔絵の頬をかすめると、その光の槍は、九鬼の肩を貫いた。

「くっ!」

顔をしかめる九鬼。

「狙いが…外れたか」

閃光の眩しさで、手元が狂ったらしい。 九鬼に向かって、人差し指を向けている乙女プラチナの姿が…光が消えて、平常に戻った空間に現れた。

「く、くそ!」

変身が解けた蒔絵は、唇を噛み締めると、乙女プラチナに向かってタックルを仕掛けた。

「無駄なことを」

体ごとぶつかっても、びくともしない乙女プラチナに、蒔絵はそのまま抱きついた。

「何がしたい?」

せせら笑う乙女プラチナは、しがみつく蒔絵に肘鉄を喰らわそうと腕を振り上げた。

その腕に、夏美がしがみついた。

右足には里奈が、左足には桃子がしがついた。

「逃げろ!九鬼!」
「いけ!」
「早くして下さい!」

三人の叫びに、九鬼は頷くと走り出した。

「ありがとう」

肩から血が流れていたが、九鬼は痛みを堪えて、全速力で走った。



どこまで走ったのか…わからない。

血を止める暇がなかった為に、九鬼は途中で頭がくらくらしてきた。

しかし、止血の為に足を止めれば…みんなの行動を無駄にすることになる。

九鬼は走りながら、意識を失った。


そして、次に意識を取り戻した時、九鬼は…真っ暗な闇の中にいた。

「ここは…?」

九鬼は、闇には慣れていた。すぐに、目が闇に対応した。どうやら…防空壕のような空間のようだ。土の壁にもたれて眠っていた九鬼は、立ち上がろうとして、肩の痛みに顔をしかめた。

「く!」

光の槍が貫いた部分に、手を当てて…九鬼は驚いた。

包帯が巻いてあり、止血されている。

「もう少しで、危ないところでした。血を止めずに、走るなんて…自殺行為ですよ」

真っ暗な防空壕の端で、黒のタキシードを着た男が立っているのが見えた。
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