天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「ブルーワールド…」

つまり異世界だ。

九鬼にはどうしょうもない。

あまりのもどかしさに、唇を噛み締めていると…タキシードの男が甘い誘いをかけた。

「もし…天空の女神を追跡したいならば…主が、手を貸すとおっしゃっております」

「あ、主?」

「勿論…月の女神で、ございます」

「!」

九鬼は息を飲んだ。

タキシードの男は顔を上げ、真っ直ぐに九鬼の目を見ると、

「この世界にいても、あなたは友達に殺されるだけです」

「…しかし…」

九鬼は、自分の手を見つめ、

「今のあたしが、女神と戦えるのか?」

拳をつくった。

月影の力を失った九鬼は、あまりにも無力だった。

「その点は…問題ないかと…。あなた様は、この世界では本来の力を発揮しておりません。知らず知らずの内に…ブレーキをかけておいでです。ブルーワールドは、魔物がある意味支配する世界。人間が、戦わなければ…生きていけません」

タキシードの男はフッと笑い、

「あの世界の方が、あなたに生き甲斐を感じさせるはずです。闇夜の刃よ」

「!」

タキシードの最後の言葉で、九鬼は決めた。

ブルーワールドにいくことを。

アルテミアに会い…綾子の仇を討つ為に戦うと。


「どうやったら…ブルーワールドに行ける」

さらに拳を握り締め、力を確認した九鬼は、タキシードの男に訊いた。

「ここから…ならば…すぐに」

「え!」

タキシードの男の返事に、九鬼は思わず声を出した。

「ここは…いえ、この学園はブルーワールドと道が繋がっておりました。数千年前ですが…。今は跡絶えた道を、繋げば…あなた様ならば、行けるでしょ」

九鬼を見つめるタキシードの男の目が、問うていた。

今すぐ…いくのかと。


「わかった!行こう」

九鬼は頷いた。

迷っている場合ではない。

この世界にいても、理香子と戦うだけだ。

それでは、蒔絵達の行動を無駄にする。

(異世界ならば…追ってはこれない)


その時の九鬼は…理香子の正体を知らなかったのだ。



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