天空のエトランゼ〜赤の王編〜
その日の早朝…。

誰よりも早く学校に来た九鬼は、西校舎の屋上から町並みを眺めていた。

昨日あったムジカとの戦いを、思い出していた。

(天空の女神…アルテミア)

スカートのポケットに手を入れると、乙女ケースを取りだし、

(そして、赤星浩也)

ぎゅっと握り締めた。

何とかムジカを消滅させることはできたが、尊い生徒の命を守ることはできなかった。

(あたしは…無力だ)

悔やんで悔やみ切れない。

しかし、いつまでも悔やんでいてはいけない。

強くなること。

それだけが、この世界で死んでいた人間に対する弔いになることを、九鬼は知っていた。

(だから…)

九鬼は目を瞑ると、町並みに背を向けた。

出入口に向かって歩き出そうとした九鬼は、目の前に気配を感じ、目を開けた。

出入口の扉の前に、赤星浩也が立っていた。


「赤星君?」

思わず声を出し、驚く九鬼に、浩也は微笑んだ。

「お早いですね」

「あなたこそ…」

九鬼も微笑んだ。

そのまま…2人は微笑み合ったが、会話は続かなかった。

九鬼は、浩也に対して訊きたいことはたくさんあった。

だけど、面と向かっては…言葉に出せない。


少し悩んでいると、浩也の方から口を開いた。

「こんな朝早くに…どうして、屋上に?」

浩也の質問に、九鬼は目を丸くした後、苦笑した。

「それは、お互い様でしょ?」

「そうですね」

2人は互いに、笑い合った。

「アハハハ…」

ひとしきり笑ってから、浩也は九鬼に向って歩き出した。

(え!)

浩也が近づいてくる。ただ…それだけで、九鬼はドキッとした。

顔も赤くなっているかもしれない。

だけど、その変化に九鬼は気付かない。

息苦しさしか感じない。

それが、浩也に対する好意から来てるのか…それとも、浩也の力によるプレッシャーからなのか…。

九鬼には、判断できなかった。

なぜならば…彼女は人を愛したことがないからだ。

だから、九鬼は今の苦しさを…浩也のプレッシャーととらえた。
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