天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「赤星君?」

やっと言葉が出た時…浩也は、九鬼のそばを通り過ぎていた。

(え…)

鼓動が止まった。

九鬼は息を飲むと、慌てて振り返った。

(さすがだ)

妙に自分自身を納得させて、浩也の背中に頷いた。

そんな九鬼の心を知るはずもない浩也は、屋上を囲む金網に手をかけた。

「僕は…」

浩也は目を細め、屋上から見える…人が造った建造物を見つめると、

「ただ…守るべきものを、確認しに来ているだけです」

「守るべきもの?」

九鬼は、体を浩也に向けた。

「あなたと同じものですよ」

浩也は振り返ると、微笑んだ。

「多分…ですけど」


浩也の表情に、九鬼は見とれてしまった。

少しぼおっとしてしまう自分に渇を入れるように、九鬼は眉を寄せ、口調を強めた。

「それは…人の世界ですね?」

「はい」

浩也は頷くと、金網から手を離した。 そして、風景に背を向けると、恥ずかしそうに鼻の頭を左手の指でかいた。

「……だけど、まだよくわからないんですよ」

「!」

九鬼の目が、あるものを発見した。

「人を守る意味が…まだ、よくね…」

浩也の言葉も、もう九鬼には聞こえてなかった。

九鬼の意識は、浩也の左手の薬指についた指輪に吸い込まれていた。

「でも、心のどこかで…そうしなければいけないと…何が告げているんですよ」

浩也は、鼻をかくのをやめ、

「心って、不思議ですね。自分のものなのに…全部わからない」

浩也は、言葉を切った。

沈黙が、2人の間に流れた。

その雰囲気に、やっと…九鬼は口を開くことができた。

勿論…浩也から、視線を逸らすことで…。

「そうかもしれないわね」

少し素っ気なく答えてしまった。

だけど、それが精一杯だった。


「浩也!」

出入口の方から、カレンの声がした。

「あっ!」

浩也ははっとして、出入口の方を見た。

「叔母さんが呼んでる」

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