天空のエトランゼ〜赤の王編〜
カレンの前では、叔母さんと言わないようにしているが…いない時は、自然と口に出てしまう。

「浩也!どこだ!」

カレンの声は、階段の下から聞こえてきていた。

「九鬼さん。失礼します」

頭を下げて、出入口に向かおうとしたが、

「待って…」

九鬼の声に足を止めた。

浩也が振り向くと、まだ九鬼は顔を逸らしたままだった。

だけど、言葉は…九鬼に向けられていた。

「一つ…質問していいかな?」

その時、九鬼は思っていた。

(本当に…心は…わからない)

「何ですか?」

浩也は首を傾げた。

(自分の心なのに…)

唇を強く噛み締め、力を振り絞ると、浩也を見た。

そして…。

「ゆ、指輪してるんですね」

と口にすると、慌てて…校則違反ですよって、笑って言おうとした。

だけど…浩也の返事が、続きの言葉を言わせなくした。

「絆です」

「え」

九鬼のすべてが、止まった。

浩也はそのことに、気付かない。

ただ笑って、

「よくわからないんですけど…また心がそう告げているんですよ」

言葉を続けたけど、九鬼の耳には入らなかった。

浩也は頭を下げると、走り出した。

離れていく浩也の背中を見つめ、やっと…九鬼の口が動いた。

「走ることも…校則違反ですよ」


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