天空のエトランゼ〜赤の王編〜
魔界西部…アルプス山脈の渓谷にある万年雪が、数百年ぶりに、水へ戻り…水蒸気に気化していた。

まるで、温泉のように立ち上る湯気よりも、高く激しく天に放射されたのは、雷鳴。

その中で、断末魔が渓谷を響かせていた。

「うぎゃあああ!」

万年雪の下に敷き詰められていた分厚い氷にヒビが入り、溶けると…やがて、渓谷に川ができた。

凄まじい地鳴りが、断末魔をかき消した。

下に向かって流れてく川。その流れに乗って、無数の巨大な氷の欠片が渓谷の岩肌を削りながら、落ちていく。

「自惚れるなよ!人間の女!」

一番巨大な欠片の上で、剣に串刺しにされている魔物が、吠えた。

「我等を圧倒する、その力は!貴様の力ではない!」

魔物は、胸を貫いている剣を握り締め、それを持つ女を睨み付けた。

「この剣の力だとな!」

「わかっている!」

雷鳴を放っているのは、女が持つ剣だった。

「自惚れているつもりはない」

女が力を込めると、さらに雷鳴が轟き、魔物を塵にした。

と同時に、女の足場だった氷の欠片も砕け散った。

このままでは、激しい濁流にその身がのまれてしまう。

しかし、女は冷静だった。

剣の柄を離すと、砕け落ちていく欠片を蹴り、空中へと飛びあがった。

すると、下から、回転する二つの物体が飛んで来て、女の足元で一つになった。

一つになっても回転し続ける物体の中心に爪先を立てて、女は着地すると、周りを確認した。

「まずいわ。水の勢いが強過ぎる。このままでは、十字軍の施設をのみ込んでしまう」

渓谷の先には、いわゆる世界に3つある魔界の出入り口がある。

旧人類がその存亡をかけて、魔界の周囲に張った巨大な結界の綻び。

朝鮮大陸の38度線、ヒマラヤ山脈、そして…ここアルプス山脈であった。

特に、アルプス山脈の綻びは、元老院の本部が一番近い為、その間に十字軍の本拠地が置かれていたのだ。

といっても、本拠地は綻びからは、数百キロ離れていた。すぐそばにあるのは、監視部隊の本陣である。

しかし…本陣の後ろには、町があった。




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