天空のエトランゼ〜赤の王編〜
入り口の町を出て、ティアナはそのまま南下した。

さすがに、十字軍本部に近付いていく程に、魔物の気配は皆無に等しくなってきた。

人類を魔物から救うべく結成された十字軍の歴史は、古い。

上空から見ると、十字架の形に見える本部建物は、その周りを強固な塀に似せた結界が丸く囲んでいる為に、十字架のペンダントのようにも見えた。

ティアナは、しばらく…十字軍本部の塀の前で立ち尽くしていた。

監視の為に、式神が上空を飛び回っている。ティアナの接近も、本部にはわかっているはずだった。

ティアナは深呼吸すると、本部を囲む結界に手を触れた。

すると、単なる石の壁のように見える結界に、穴が空いた。

この結界に、出入口はない。

本部内からの許しを得た者にしか、道は開かないのだ。


「ようこそ、ティアナ・アートウッド様」

結界を越えるとすぐに、三人の神官が、ティアナを出迎えた。

深々と頭を下げた神官は、三人とも女であった。彼女達は、全身の毛を剃り、神に忠誠を誓うものとしてその身を捧げていた。

「ティアナ様」

真ん中にいた神官が、一歩前に出た。

「つい先程…元老院の本部が、壊滅しました」

「え」

ティアナは驚いた。

「中央にあった王宮も、破壊され…天子様も…」

そこまで言って、神官は泣き出した。

後ろの2人も、泣き出した。

「……壊滅寸前で、元老院から脱出できたのは、5人だけです」

神官は涙を拭い、報告を続けた。

「あなた様のお祖父様であられる…元老院最高議長も、傷を負いましたが、何とかご無事でございます」

「只今…十字軍の作戦本部にて、緊急会議が行われておりますれば…あなた様も…」

と、神官が言いかけた時には、ティアナはもう前にはいなかった。

もう一度、結界を空けると、外に向かっていた。

「ティアナ様!」

慌てて、神官が呼び止めたが、ティアナは止まることはなかった。




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