天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「今、行くわ」

リンネは、返事をすると、窓から身を乗り出して離れないフレアに目をやった。

手を伸ばし、何かを掴もうとしているフレアの背中に微笑んだ。

無反応だったフレアの変化は、何でも嬉しかった。

しかし、魔神の集まりに連れていく気にはなれなかった。

「大人しく待っていてね」

リンネが部屋から消えたと同時に、伸ばしたフレアの手のひらに一輪の花が落ちてきた。

しかし、花は…フレアに触れると燃え尽きた。

その結果に、目を見開いて驚くフレアの目の前を、人が通り過ぎた。

つまり落ちていったのだ。


「ああ…」

全身血塗れになって、吹き抜けから落ちていくアスカの目に、空が映った。

痛みから見開いた瞳に、映るはずがないのに…アスカは空を見れた。

そして、その空を飛ぶ鳥の姿も。

(空を飛びたい…)

地面に叩きつけられるまでの数秒。アスカは、夢を描いた。

(そしたら…自由に、どこでもいけるのに)

初めて見る空の眩しさも、潰れているアスカの瞳には関係なかった。

(綺麗…)

地面に激突した瞬間、アスカは世界が綺麗と感じていた。

(ち、ち、ち…)

声も出なくなったアスカは、心の中で囀ずりを真似した。

完全に見えなくなる寸前、アスカの目に…空から降りてくる影が見えた。逆光の為、何なのかはっきりとは確認できなかった。

だけど、アスカには…それが、鳥に見えた。

(あたしも…あなたのように…なりたい)

アスカは、そばに降り立った影に、手を伸ばした。



そして、その手が握られた瞬間、アスカは息を引き取った。

「…」

アスカの手を掴んだのは、フレアだった。

なぜか…わからないが、アスカの手を握り締めた瞬間、フレアの目から涙が流れた。

初めての涙。

そして、炎の魔神であるフレアに手を握られた為に、アスカの体は燃え上がった。

その炎は、フレアから落ちた涙も蒸発させた。

一瞬で、燃え盛る炎は…フレア自身も包んだ。

炎は燃え広がり、やがて…その中から、一羽の鳥が空へと飛び立った。


< 495 / 1,188 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop