天空のエトランゼ〜赤の王編〜
大月学園の屋上で佇むリンネの耳に、鳥の囀りが聞こえてきた。

十字架に磔にされた九鬼の姿をただ…ぼおっと、眺めていたリンネは顔を上げ、小鳥を探そうとした。

(フッ…)

そんな自分に笑ってしまった。

別に、小鳥が気になる訳ではない。

かつて…そのそばにいた女を、探しているのだ。

(御姉様)

笑顔を向けるフレア。

そう言えば…あの頃は、よく笑い…よく話していた。

(いつから…無口になった…)

リンネは、それを覚えていなかった。

それほど昔…思い出せない程の過去…。







「クラークよ」

格納庫に残ったクラークに、新たな命令が下された。

「長老からだ」

白髭の男からの密書を、人々の死体を処理している白装束の集団の1人から、差し出された。

「速やかに、処理するように」

そう告げると、集団の中に消えていった男を、クラークはもうどこにいるか…見つけることができなかった。

それほど、個性がない。

クラークは密書を受け取ったまま、しばし動かなかった。

「やはり…訳ありのようだね」

そんなクラークのもとに、魔物の死骸から魔力をカードにチャージし終わったランが近寄ってきた。

「…」

クラークは返事もせず、ランを見ることなく、その場から立ち去ろうとした。

「待ちたまえ」

ランは、クラークの背中に声をかけると、持っていたカードを投げつけた。

反射的に振り向き、中指と人差し指で、縦に回転して飛んできたカードを掴んだ。

ランは笑い、

「魔力を補充しておいた。使いたまえ」

それだけ言うと、クラークに背を向けた。

クラークは、カードを見つめ…ぼそりと呟いた。

「ありがとうございます」

その声が聞こえたのか…ランは手を振った。


のちに…初代安定者となるランと、彼が裏切った為に空白になった席に座ったのが、クラークだった。

2人は、互いに干渉することなく、そのまま別の道を歩き出した。

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