天空のエトランゼ〜赤の王編〜
人は、娯楽を求める。


それは、なぜか…。

人生は、退屈だから。

いや、違う。

魔物が、支配するこの世界で、退屈はない。

気を許したら死ぬ。

だけど、人は娯楽にすがる。

それは、退廃的なデカダンス。

人は…どこか狂わないと生きれない。



「…かしら?」

煙草に火をつけた。

魔力を失った人間は、煙草を吸うのにも、火薬を擦るという労力を使う。

「…でも、多分…」

女のつけた煙草の光だけが、輝いていた。

薄暗い空間に流れる…気だるいミュージック。

言葉なき音が、人の思いを揺さぶる。

感性なきもののは、感じられない世界。

それは、孤独さえも…遊んで見せる戯言。

真実なき…戯言。


――カラン。

扉が開いた。

外の世界は、夜なのに明るい。

「いらっしゃいませ」

そして、店内にだけ…夜がある。

煙草の火さえも眩しい闇が…。


「ああ…」

店内に入ってきた男は、女が中にいるカウンターに近付くと、いつもの言葉を口にした。

「ターキーをロックで」

その注文に、煙草を灰皿にねじ込んだ女は、分厚い唇を歪めて、微笑んだ。


静かに…静かに、グラスの中で、氷が回る。

「世界が…変わる」

男は、女から受け取ったグラスを揺らすと、

「もう…音を奏でる暇もなくなった」

グラスの中身を一気に飲み干し、空になったグラスを差し出す。

「そうかしら?」

女は再びグラスに、ターキーを注いだ。

男の前に置いたコースターの上に、グラスを置き、

「おかわりする暇は、あるじゃない」

男に笑いかけた。

「フッ」

男は苦笑すると、着ているくたびれたスーツの内ポケットからくしゃくしゃになった煙草ケースを取りだした。指でケースを叩くと、飛び出てきた一本を口にくわえた。

その瞬間、女から火がついたマッチが差し出された。

男は、火がついた煙草の煙を吸い込むと、

「気がきいてるな」

カウンターに肘をつき、女を見上げた。

「仕事だからね」

女は、肩を軽くすくめた。

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