天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「馬鹿な…」

炎が消えた体を、リンネは自分で確認することもできず、枯れ葉が積もっている地面に前のめりに倒れた。

炎そのものであるはずの自分が、今は人間と変わらない。

そんな状況よりも、浩也が振るった剣に衝撃を受けていた。

「そうか…。お前の体は…」

リンネは、すべてを悟った。

蘇ったフレアの正体。

それは、チェンジ・ザ・ハートに残された…彼女の思念である。

「そこまで…して…あなたは…」

すべての魔力を吸い取られ、指一つ動かせないリンネの目から…涙が流れた。




「お姉様は、優しいわ」

炎の中、騎士団長として戦うリンネは、燃え盛る花畑を見つめていた。

防衛軍の予想外の反撃により、戦地は炎に包まれていた。

人間だけでなく、周りにあった自然も破壊されていた。

戦いが終わっても、燃え続ける花達を、リンネが見ていた時、そばに来たフレアが言ったのだ。

「はあ?」

リンネは眉を潜め、隣に立つフレアに顔を向けた。

「何を言っている?あたしが、優しい?そんな訳がないでしょ。この一帯を燃やしているのは、あたしの炎よ」

少し睨んだリンネに、フレアは微笑み、

「でも…今、お姉様は泣いてた」

「はあ?」

さらに眉を寄せたリンネを見ないで、フレアは燃える花畑を見つめ、

「あたし達は、炎の魔物。燃やせても、消すことはできない。だから…お姉様は泣いてたのよ」

「何を馬鹿なことを!」

リンネは言葉を吐き捨て、

「あたしは、涙など!流したことはない!」

再びフレアを睨み付けようと、妹の顔を見た。

「!?」

その瞬間、リンネは息を飲んだ。

逆に自分を…真剣な顔で見つめているフレアがいたからだ。


「お姉様…」

「な、何?」

「お姉様の炎は、自分自身の涙さえも…すぐに、蒸発させてしまう」

そして、フレアは優しく微笑むと、

「いずれ…お姉様も気付くわ。自分が涙脆いことに…」





「フレア…」

リンネは炎がなくなったことにより初めて、自分の涙を知った。
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