天空のエトランゼ〜赤の王編〜
九鬼を抱き上げ、ゆっくりとその首筋に、牙を突き刺そうとした時、美亜の前から声がした。

「人の自由を奪ってはいけないよ」

その声に…いや、その声の音色に、美亜は驚き、動きを止めた。

「!?」

目を見開き、美亜は顔を上げた。

目の前に立つ…男の姿に、美亜は絶句した。

「あ、赤星…」

その男は紛れもなく…赤星浩一だった。

赤星浩一は微笑みながら、首を横に振った。

「ば、馬鹿な!」

思わず立ち上がった美亜。その瞬間、後ろの扉が開いた。

「!?」

美亜は、振り返った。

「見つけた!」

扉を開けたのは、赤星浩也だった。

「赤星…」

美亜ははっとして、前を向いた。

もう…赤星浩一はいなかった。

「く!」

美亜は顔をしかめると、眼鏡をかけた。

「阿藤さんが、助けたんですか?」

中に入ってきた浩也に、美亜は深呼吸した後、微笑み…首を横に振った。

「あたしじゃないです。誰かが、助けて…ここに、連れてきたみたいですよ」

「そうですか」

浩也は靴を脱ぐと、畳の上に上がろうとした。

「あっ!」

美亜は…自分が土足であることに気付き、

「もう誰も使っていないですから…靴のままでも」

「いいんですよ」

浩也は微笑み、

「僕がいた世界では、靴を脱ぐのが当たり前でしたから…」

「僕が…いた世界?」

美亜は、浩也が口にした言葉に眉を寄せた。

「え?」

美亜に言われ、浩也は自分が口にした言葉を思い出し、

「どういう意味だろ?」

首を傾げた後、愛想笑いを浮かべた。

「アハハハ!」

一応、美亜も合わせて、無理矢理笑った。

2人は、しばらく笑い合った。

しかし、美亜の目はまったく、笑っていなかった。

(やはり…目覚めて来ているか…)

冷静に、浩也の様子を見つめていた。
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