天空のエトランゼ〜赤の王編〜
避けたのではない。

アルテミアの拳圧で生じた風によって、ソラが舞い上がったのだ。

「ごめんなさい…。御姉様」

ソラは、屋上の周りを囲む金網の上に、ひらりと着地し、

「あたしは〜御姉様とまともにやり合う気はないの。だって、今や〜!お父様の次に強いんですもの!御姉様とやり合って、マリー御姉様やネーナ御姉様みたいに、殺されたくないですから!」

ソラは、ぺろっと舌を出した。

「き、貴様!」

近づこうとしたアルテミアは、一瞬…背筋に寒気が走った。

純粋な殺意。 魔力の大きさとは関係なく、殺意の強さは、人をぞっとさせるものがある。

「御姉様は…強いわ。とても、敵わない…」

ソラは、顔を伏せた。 そして、ワンピースの胸元に指をかけると、

「だって…疼くんですもの!」

一気に指で、胸元からワンピースを切り裂いた。

露になったバストの…ちょうど真ん中に走る傷痕。

「生まれる前につけられた!この傷が!」

目を見開き、雰囲気が変わったソラを見て、アルテミアは自然と構えた。

その姿に、ソラは目を細め、

「目覚める前…瞼の向こうに残るのは…御姉様と同じブロンド………」

そう呟くように言ってから、ソラは再び笑顔を作った。

「御姉様…。今日は、これで失礼しますわ」

ソラは手を振りながら、背中から金網の向こうに落ちて行った。

「ご機嫌よう」

笑顔のまま…屋上から落ちていくソラ。

「クソ!」

アルテミアもジャンプし、金網を飛び越えた。

「いない!」

しかし、五階下の地面に着地した時には…ソラの姿はなかった。

「あいつの目的は、何だ?」

アルテミアの目に、先程の傷痕が残っていた。

「…復讐か?」

アルテミアには、ソラに傷を負わしたのが…ティアナであるとわかった。

「それとも…」

アルテミアは、地面を踏み締めたまま…天を見上げた。

今日は…月が、雲に隠れていた。

< 649 / 1,188 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop