天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「謎は…解けないから、謎か…」

高坂はカードをしまうと、屋上から階段を降りた。

「無力だな…」

足下の階段を見つめながら、軽く舌打ちした。

「しかし、だからと言って、受け入れるものか」

階段を一階まで下りきり、校舎から飛び出た高坂の目の前に、飛び降りてくる少女の姿が映った。

「な!」

絶句した高坂は思わず駆け出し…反射的に両手を出して、受け止めようとした瞬間、背中から落ちてきた少女は顎を上げ、高坂に向かって微笑んだ。

「え」

その微笑みの美しさに、高坂は看取れてしまった。

死ぬ寸前の少女は、こんなにも美しいのかと…。

そんなことを心の隅で思った時、高坂は飛び出た入口から、再び校舎内に戻された。

風が吹いたのだ。

「部長!」

階段を下りてきた輝の目に、高坂がくの字になって飛んでいくのが見えた。 慌てて、階段の途中で手摺を掴んで、横に伸びる廊下に飛び降りた。

タイミングよく高坂を受け止めたが、そのまま輝もふっ飛んだ。

男2人を吹き飛ばす程の威力のある風。

しかし、その風は…高坂達にしか吹いてはいなかった。

一階の廊下に並び窓ガラスは、揺れることすらなかった。

少女が消えると同時に、もう1人の少女が飛び降りてきたが、その様子を見るものはいなかった。

「チッ」

暫し…立ち尽くし、空を見上げた後、もう1人の少女はブロンドの髪を靡かせて、その場から立ち去った。


「なんだったんだ…」

高坂は、お腹をさすった。ボウリングの玉のような塊が、自分をふっ飛ばしたような感覚があったが…実際には何もなかった。

(風…いや、空気の塊か)

お腹を擦りながら、廊下を突っ切って、反対側の入口から中庭までふっ飛んだ自分のダメージを確認した。

(大丈夫だな…)

高坂はよろけながらも、ふっ飛ばれた道を戻った。

「痛た…」

高坂の下敷きになった輝は、無傷だった。丈夫さだけが、取り柄である。

「大丈夫か?」

「はい」

高坂の声に、輝は頷いた。

少女が落下してきた地点に来ても、痕跡すら残っていなかった。

「今のは…」

高坂は、答え無き答えを探した。
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