天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「つまり…。彼女…高木麻耶が、西校舎から飛び降りた後…屋上から、飛び立った影があると」

新聞部部室の応接セット内で、ガラスのテーブルを挟んで座る高坂と理沙。そんな2人の前に、運んできたお茶を置きながら、さやかは理沙に訊いた。

「はい…」

理沙はソファーに座ってからずっと、顔を伏せていた。さやかが置いた湯呑みがちょうど、いい具合に視線の先と重なった。

「飛び立った影か…」

さやかは、高坂の隣に座ると、自らの膝に頬杖をついた。

「…それは、飛び降りた影ではないのだね?」

理沙の言葉を聞いていた高坂は、おもむろに口を開いた。

「は?」

高坂の言葉に、理沙ではなく、さやかが反応し、

「飛び降りたのは、彼女の親友で…」

「俺は…君の友達が飛び降りる数分前に、別の飛び降りを見ている」

さやかの言葉を無視して、高坂はテーブルの向こうの理沙の瞳を凝視した。

(やはり…どこか似ている)

と、高坂が思った時、今まで俯いていた理沙が顔を上げた。

(!?)

逆にじっと見つめられて、高坂は息を飲んだ。

「違います」

理沙は真っ直ぐに高坂を見つめ、そう一言言った後、しばらく言葉を止め、

「絶対に違います。麻耶が飛び降りた後、天使のような白い翼を広げて…」

「天使のよう?」

理沙の言葉を聞いて、さやかが眉を寄せ、

「…ということは、天空の」
「軽々しく決めないことだ」

高坂は、さやかの言葉を遮ると、軽く奥歯を噛み締め、

「綾瀬さん。一応、確認したい。君は、高木さんが飛び降りるところを見た。それは、屋上で見たのか…それとも、下から見たのかい?」

「そ、それは…」

少し口ごもった理沙は、

「下からです。わたしは、麻耶と待ち合わせしていたのに…来なかったから」

再び顔を伏せた。

「ということは…高木さんは、待ち合わせの場所に来ないで、なぜか…屋上に向かった。そして、そこから…何者かに落とされたと」
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