天空のエトランゼ〜赤の王編〜
(心が…ざわめく)

九鬼は、ぎゅっと拳を握り締めると…美和子に背を向けた。

「美和子さん…。ごめんなさい。少し用を思い出したので、失礼するわ」

「か、会長!?」

突然、生徒会室から飛び出した九鬼の後ろ姿に、美和子は手を伸ばしたが、届くはずもなかった。

走ってはいけないとわかっている廊下を、九鬼は疾走する。

魔力削減の為に、明かりの消えた廊下に、月明かりだけが射し込んでいた。

(月よ…。あなたの光を借ります!)

疾走しながら、黒の眼鏡ケースを突き出す。

「装着!」

ケースが開くと、そこから黒い光が溢れ出し、九鬼の全身を包んだ。

「どこにいる!?」

乙女ブラックになった九鬼の眼鏡のレンズに、文字が羅列される。索敵システムが発動し、闇の波動を探す。

――ピピピ…。

細かい電子音のようなものが、九鬼の耳に聞こえてきた。

(!?)

次の瞬間、電子音はけたたましく警告を発すると、突然…レンズが真っ赤になり、

「ば、馬鹿な!」

九鬼は後ろに吹っ飛んで、廊下に片膝をつけていた。

眼鏡が外れ、変身が解けた。

「き、強制解除された!?」

そのような反応は、初めてのことだ。

廊下に転がる乙女ケースを拾うと、九鬼は…その表面を見つめた。

(つまり…今度の相手は、それだけヤバいということ!)

九鬼は、乙女ケースを握り締め、

(だったら、尚更!)

立ち上がった。

「野ばらしにはできない」

先程の反応から、その相手が校内にいることは間違いなかった。

「ふぅ〜」

九鬼は深呼吸すると、全身を落ち着かせた。

そして、神経を研ぎ澄まし…己の肌で、相手を探ることにした。

ゆっくりと、再び…歩き出した。





その頃…新聞部の部室についた輝は、唖然としていた。

「遅い!」

文句を言うさやかの前に、座る少女を見て…輝は動けなくなった。

「すまないな」

高坂は、さやかの隣に座った。

「…」

輝は、入り口から動けない。

なぜならば、そこにいるのは…先程見た少女にそっくりだったからだ。
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