天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「前田…先生」

九鬼はしばらく、前田の背中を見送っていた。

「そうか…」

九鬼は、彼女が表向きは…新聞部の顧問であるが、裏では情報倶楽部の責任者を担当していることを思い出した。

非公式である情報倶楽部は、置いておいて…新聞部部長の如月さやかが休学扱いにされても、新聞部自体が廃部にならなかったのは、前田が結城哲也の傘下に入っていたからだ。

勿論、表向きではあるが…月の女神の力を使い、新たな防衛軍を再編しょうとした哲也の行動を、常に監視していたのは、彼女だった。

「双子の妹…」

その時、九鬼の頭に…綾瀬理沙の情報は入っていない。

「…」

九鬼は、空を見上げた。

実世界よりも、数段空気が澄んでいるブルーワールドでは、満面の星が輝いていた。

「すべては…明日だ」

焦ってはいけないと、九鬼は深呼吸をした。

そして、右横を見ると、高木麻耶が飛び降りた西校舎の方を凝視した。

中央校舎が邪魔して見えないが、そんなことは関係なかった。

両拳をぎゅっと握り締め、先程も感じた恐ろしい程のプレッシャーを思い出していた。なぜならば…早朝、九鬼が襲われた場所も、西校舎屋上だったからだ。

さらに、そこで、出会った…天使の姿をした相手を思い出していた。


(天使だよ)

同じく、保険室で…照れながら言った浩也の顔を思い出した。

九鬼は、目を瞑った。

(天使…)

その名のごとく神のような力を持つ…相手。

(それでも…)

九鬼は目を開けると、再び空を見上げた。

(戦う!)

そして、強い決意をすると、視線を空から中央校舎の向こうの西校舎に向けた。

(フッ…)

自然と笑ってしまった。

(そうだ…)

九鬼は歩き出した。

(あたしには…それしかできない)

戦うことしかできない。

九鬼は、自分のできることを理解していた。

(例え…勝てない相手でも、負けはしない)

九鬼は、覚悟した。

(己の血肉が、一滴でも残っている限りは!)
< 697 / 1,188 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop