天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「あたしは…」

突然、顔を上げると、真由は輝に近付いた。

「それでも、あの人は逃げれたからいいと思います」

「うう…」

近すぎる真由の顔に、輝は後ろに身を反らした。

「あなたから…人間ではない匂いがします。だから…あなたには、話せるのかもしれませんね」

真由は鼻をクンクンさせると、笑顔を作った。

「人ではない匂い…」

それは、身体に宿した犬神の匂いだろうか。

「いい匂いです」

真由は、輝から離れ…ペコッと頭を下げた。そして、再び背を向けた。

「姉のことは気にしないで下さい。あの人も…所詮、人間ですから」

と言うと、歩きだした。

「所詮…人間…」

最後の言葉を呟くように言うと、輝は唇を噛み締め、遠ざかっていく真由を追いかけようとした。

そんな輝の鼻先を何かが、左から右に通り過ぎた。

「え」

鼻先が、血で滲んだ。

動きが止まった輝の左横から、駆け寄ってくる生徒がいた。

勿論、銃を突きだしたまま走ってくる梨々香である。

「てめえ!いつの間に!ターゲットと接触してやがる!」

引き金に指をかけて、怒りの形相で向かってくる梨々香を見ることなく、輝は掴むことができなかった自分の手を見つめ、わなわなと震えだした。

「あの女は、あたしが!」

「うるさい!」

輝の姿が消えた。目視できない神速を超えた輝は、梨々香の銃を蹴り落とした。

「え!」

梨々香には、輝の蹴りがまったく見えなかった。

ただ…いつの間にか銃が手から消え、廊下に転がっていた。

「くそ!」

苛立ちが、輝の様子を変えていた。

野生の狼のように、危険な雰囲気が漂っていた。

「く、くそ!」

そう言うと、輝は自らの教室に向かってく歩きだした。 その間、まったく梨々香の方を見ていない。

「な、何なのよ…」

梨々香は、銃を拾うことなく、離れていく輝の背中を見送った。

「クソ!」

苛立つ輝。だけど、心の底では…自分の苛立ちの意味がわかっていなかった。
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