天空のエトランゼ〜赤の王編〜
(フッ…)

高坂は心の中で笑い、

(面白い)

前から二番目の席…今田の後ろに座った。

静かに、発車する二台のバス。

ガソリンで動いていない為に、排気ガスを出すこともない。




「帰りの魔力がないから、バスの分も頼むな」

先頭のバスの中で、前田は後ろに座る生徒達に向かって、冗談ともつかないことを言った。

バスは、大月学園を南下して一路、海を目指す。

「途中、何があるかわからんからな。気を引き締めろ」

市街地を抜ければ、海までは山の中を通ることになる。そこはもう…人間だけのテリトリーではない。

大月学園のある町を抜け、隣町に入ったことを看板で確認した高坂は、注意深く周囲を伺った。

まだ人間のテリトリーではあるが、月のご加護からは出たことになる。

(都市圏から離れている癖に、学園の周りに住宅地が多いのは…本能的に気付いているからか?)

高坂は疎らになった住宅地見つめながら、そう思っていた。

東の方に進めば、都市圏であるから、住宅地は多い。しかし、高坂達が目指しているのは、住宅地から外れることになる。

二時間近く、何事もなく進んだバスは、山の入口まで到着した。

そこにある関所で、トイレ休憩となる。

「十分後、出発するぞ」

前田がバスから降りると、その後に戦いに不似合いな赤のワンピースを着た女も続いて降りた。

「上野先生も、ここからは気を引き締めて下さい」

後ろに振り向いた前田の言葉に、上野は微笑みながら頷いた。

上野とは…炎の騎士団長リンネのことである。

「ふ〜ん」

リンネは周りを見回し、口元を緩めた。

数多くの魔物の雰囲気が、漂っていた。

実世界でいうパーキングエリアに似た関所には、防衛軍の残存部隊が自衛団を組んで駐屯していた。

生徒達に指示を出していた前田のもとに、軍服を着た軍人が駆け寄って来た。

「大月学園の方々ですね」

被っていた帽子を取り、頭を下げた軍人に、前田は頷いた。

「は、はい」




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