天空のエトランゼ〜赤の王編〜
浩也が掃討した道を一気に通り過ぎると、バスは再びトンネルに突入した。

このトンネルを越え、もう一回トンネルを潜れば、関所に着く。

再び、魔物の襲撃に備えて、二台のバス内に緊張が走る。

しかし、トンネルから飛び出すと、拍子抜けのように魔物がいなかった。

気配もしない。

静まり返った山の中を、バスは走る。路面も先のように、ガタガタになっていない。

「…」

真由は横の窓を見ることもなく、ただ前を見つめていた。

そんな真由の様子に、輝は何も言えなくなっていた。

「…!?」

すると、輝の座る席の斜め前から、鋭い眼光が飛んできた。

(話せ!)

振り返り、輝を睨んでいるのは、緑だった。

さらに、輝の前の席にはさやかが座り、聞き耳を立てていた。

(殺される)

このまま何も話さなければ、バスを降りた瞬間、2人の鬼に殺される。

輝は、自らの最悪の運命を変える為に、仕方なく真由に話しかけることを決めた。

「ま、魔物はもう〜襲って来ないようですね。よ、よかったですよね」

その言葉に、真由は目だけを動かし、輝を見ると、少し笑った。

その笑みを見て、輝はなぜか…ぞっとした。

無意識に自分から少し離れた輝に、微笑む顔を向けると、真由は言葉を続けた。

「だって…その方が怖いでしょ?魔物が、来ない方が」

その意味を考える余裕が、輝にはなかった。

真由の目を見つめ、動けなくなっていた。

「…」

前の席に座るさやかは、真由の言葉の意味を考えていた。

(確かに…最初のトンネルを潜った時は、魔物の群れに待ち伏せをされた)

その次のトンネルを抜けた方が、山の中に入っていたはずだ。

(なのに…魔物の襲撃はなかった)

その意味は、何だ。

最初の戦いで、九鬼やカレンの実力を知り、怖じけずいたのだろうか。

自分でそう考えて、さやかはすぐに否定した。

(そんなことはない!結構、付け入る隙はあったはずだ)

そんなすぐに、諦めるとは思えなかった。
< 802 / 1,188 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop