天空のエトランゼ〜赤の王編〜
バスは無事に関所を越え、その側にある食堂で休むことにした。

山越えの疲れを癒す為に立てられた食堂は、関所の警備隊に防衛されている為、安全だった。

「よく越えられましたね」

食堂の前を警備する兵士が、バスから降りて来た前田に感心したように言った。

前田は、頭を下げてから、

「ええ…。襲われたのは、最初のトンネルを抜けた時だけでしたから…。運が良かったのでしょう」

兵士に向かって微笑んだ。

それから、後ろを向くと、バスを降りて来た生徒達に叫んだ。

「食事休憩は、30分だ!各自それまでに、バスに戻れ!」

と話している途中で、前田ははっとした。

慌てて食堂の方を向くと、高坂と緑、輝が食堂の前にいた。

「高坂!勝手に入るな!」

前田の声に、高坂はふっと笑い、

「我々に時間がないのですよ!大切な一分一秒!」

後ろに向かって振り返りながら、指差し、

「我々は!10分…いや!5分で、バスに戻ろう!」

言い放った。

「部長だけにして下さいね」

そんな高坂の横を、緑が横切って行った。

「30分でも、短いですよ」

輝も、緑の後に続いた。

「大体…予定より早いだろうが」

さやかも横切って行った。

ぞくぞくとそばを通り過ぎる生徒の中、高坂は崩れ落ちた。

「もうすぐ…五分だぞ」

最後に前田が、高坂の耳元で言った。

「く!くそ!」

全生徒が食堂に入った後、高坂は立ち上がった。

「高坂真に、二言はなし!」

拳を握り締めると、食堂の中にパン屋に向かい、適当に掴むと、金を払い…バスへとダッシュして行った。

その姿を見ながら、輝はテーブル席に座った。

「たまに…部長が、アホに見えますよ」

ため息に混じりに言った輝の隣に座りながら、緑は意外そうに言った。

「知らなかったか?」

「但し…底なしのアホよ。普通の人間には、真似できないね」

輝の前に、さやかが座ると、後ろを振り返り、バスに戻る高坂の後ろ姿を見つめた。
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