天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「逃げようなんて…そんな」

輝が何とか言い訳を考えている時、海に潜った潜水艦の方から物凄い爆破音がした。

「…」

その音を聞いて、にやりと笑う真由。

「何!?」

広場より少し上にある合宿所に入ろうと、石段に一歩足を置いた前田は、振り返った。

すると、再び爆破音が海の中からして、水飛沫が飛んだ。

「あははは…」

その音を聞きながら、輝は笑い…心から次の言葉を口にした。

「乗らなくて、よかった」



「チッ!」

九鬼は舌打ちすると、乙女ケースを取りだし、海へと突きだしている埠頭に戻ろうとした。

「大丈夫だ!生徒会長!」

その行動を、前田が止めた。

「あれくらいの攻撃は、想定内だ!沈没はしない。だから、行かなくていい」

「…」

振り返り、自分を見る九鬼に、前田は大きく頷いた。

事実、潜水艦は外壁にダメージを受けながらも、無事に港へと帰港していた。

「わかりました」

九鬼は乙女ケースをポケットにしまうと、潜水艦の方に背を向けた。

全員が、爆発音に驚き足を止めている中…1人、高坂だけが、合宿所の扉を開けていた。

「やあ、梅」

扉の向こうで、正座して出迎えているのは、老婆の姿をした森田拓真の式神であった。

「お久しぶりでございます。高坂様」

梅は、深々と頭を下げた。

そんな梅に微笑むと、高坂は誰もいないのを確認し、膝を下ろした。

そして、梅の耳元で囁くように言った。

「森田部長に伝えてくれ…。少し騒がしくなるが、あなたの眠りの邪魔はしないと」

「了解致しました。我が主にお伝えしておきましょう」

梅は頷くと、少し顔を上げ、

「こちらもご報告がございます。昨日、生徒の1人が、結界の向こうに侵入致しました。止めようとしたのですが…妙に強い魔力を感じ、止めることができませんでした」

「強い魔力?」

高坂は眉を寄せた。

「あとをつけようにも…生憎、私はここから動けないように作られております故…申し訳ございません」

梅は、床に額をつける程、頭を下げた。



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