天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「平和だね〜」

意図的に口許に笑みを作りながら、廊下歩く幾多流の前に、1人の男が立ちふさがった。

刈谷雄大である。

眼鏡を人差し指で押さえながら、無言で立つ刈谷に幾多は肩をすくめた。

「観察かい?人間の…いや、この僕の」

「…フッ」

幾多の言葉に、刈谷は口許を緩めるとそのままゆっくりと歩き出し、幾多の横を通り過ぎた。

そして、しばらく振り返ることなく、刈谷が遠ざかっていくの感覚で確認した後、幾多は歩き出した。

「正解」

と呟くように言った後、歩きながら再び肩をすくめた。

「でも…いやな人間だね。僕ってやつわ」

今度は作り笑いではなく、自然に…にやりと笑った。





「今回の合宿のことは、記事にしない」

ソファに深々と腰かけるさやかの言葉に、新聞部は騒然となった。

「部長!」
「それは、あり得ないです!」
「多くの生徒が死んだのですよ!一部の大人達の利権の為に!」

部員達の言うことはもっともだが…さやかは、一喝した。

「これは、決定事項だ」

その言葉だけで、部員は口を閉じた。

「記事を差し替えろ!」

最後にそう命じると、さやかはソファから立ち上がり、部室を出た。

いたたまれなくなったからだ。

「くそ!」

頭をかき、軽く自分自身に毒づいてみた。

部員の言うことが正しいことは、わかっていた。

しかし、それを越えたものがあったのだ。

「島の真実をすべて…暴露する訳にはいかない」

さやかは、苦悩したが…もう答えはとっくに出していた為に、決定事項を変える気はなかった。

「うん?」

少しだけ心を落ち着ける為に、部室から歩き出したさやかの目に、並んで歩く双子の姿が飛び込んできた。

「あの子達は…」

さやかの記憶から、双子の情報が導き出された。

「確か…」

合宿に参加していたはずだ。

しかし、帰りの潜水艦に乗船していなかった。
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