結ばれぬ恋、許されぬ想い~戦国恋想~【短編】
俺が固まったまま一向に動きもせず、言葉を掛けないのを不安に思ったのだろう。
若菜姫はそろそろと俺の胸から顔を離し、目を伏せたまま言った。
「私、ずっと書物とばかり語り合っていて、同じくらいの歳の方とお会いするのは鎖迅さまが初めてで。
あの日、不安でいっぱいだったのですが、鎖迅さまのお優しいお顔を見て、何だかとても安心したのです。
だから、あの日限りになるのが嫌で……
それで、思わず小間使いのようなお仕事をお願いしてしまって……
でも鎖迅さまは嫌な顔一つせずに、私の他愛もない話にまでお付き合いして下さって。
そんな鎖迅さまが……私……」
姫の伏せた瞳から、一滴の涙が零れた。