結ばれぬ恋、許されぬ想い~戦国恋想~【短編】
立ち上がった俺に、邑楽は当然だとばかりにニヤリと笑った。
「さあ、紅の国が滅び、姫が拐われたと言った私の言葉が正しかったとわかったはずだ。
今すぐ翠の国へ向かうがいい」
そう急かされ、俺はひとつだけ気になっていたことを訊く。
「何故、俺を助ける……?」
陰陽師は政(まつりごと)にはあまり関わらないと思っていた俺には、邑楽の行動が不思議だった。
「フン、報われない想いだと諦めてる大馬鹿に、良く似た奴を知ってるからな」
そう言って、ふてくされた顔で小さく「精々頑張るがいい」と呟き、消えた。
「顔、赤くしてたな」
俺は久しぶりに頬が緩むのを感じた。
邑楽が想いを馳せていたのは、政などではなかった。
そして。
「……若菜姫。今、参ります」
俺はヨロイの残した足跡を、ぎりっと踏み締めた。