結ばれぬ恋、許されぬ想い~戦国恋想~【短編】
「御意」
俺の返事にホッとした顔をした若菜姫に、ふと初めて姫に会った時のことを思い出した。
あの時、靖倖様が俺に姫の書物係を言いつけた時に言いかけた『それに……』。
あれは『それに、若菜は紅珠を持つ者だから、守って欲しい』と言いたかったのではないだろうか。
勝手な考えだが、あながち間違いでもない気がしていた。
今となっては知る術(すべ)はないけれど。
ほんの一瞬ぼんやりした俺に、若菜姫は悲鳴を上げた。
「鎖迅さま、後ろです!!」
その言葉に、俺は反射的に後ろを振り返った。
翠の国の統治者が、刀を振りかざして俺に斬りかかってきた。
キラリと光る、右腕。
殿様が機人だったのだ。
機人も戦闘能力は高い。
そして、利き手らしい右腕というのが厄介だと思った。
俺は小さく舌打ちをすると、若菜姫を庇うように背中へ押しやった。
そして、愛する人の目の前で言霊を紡ぎ、サムライ化をする。
『姫の願いを、叶えん』
今も、この先も、
ずっと──
end